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さくら咲く

さくら咲く

出産翌日

8月10日

朝、ようやく痛みが治まり、頭がすっきりして来て、

色々なことが考えられるようになっていました。

昨日は本当に壮絶と言っていいほどの

色々な痛みを味わった気がしましたが、

落ち着いてみて、改めて「子供を産んだ」

という大きな喜びに浸っていました。

窓の外は天気も良く、一層清々しい気持ちにさせられました。

さっそく仲の良い友達に、「子供を産んだよ」ってメールしました。

本当に幸せなひと時でした。


***************


看護師さんが様子見に来てくれました。

「子供の状態はどうですか?」

と聞いてみると、

「私もまだ忙しくてNICUに行ってなくて、確認してないのよ」

と申し訳なさそうに言ってくれました。

私も看護婦さんも忙しいのだなと思って、逆に申し訳なくなって、

「先生に聞いてみます」

と笑顔を作って言いました。


************


8時過ぎ、主治医の先生が来てくれました。

私の体を一通りチェックして

「子宮の戻りはいいですね」

とニッコリと綺麗な笑顔で言ってくれました。

先生が体を診てくれている間、

きっと最後に子供の話をしてくれるのだろう

と思いながら辛抱強く待っていたのですが、

先生はそのまま立ち去ろうとしました。

私はあわてて「先生」、と呼び止めました。

「子供は・・・?」

不安な気持ちになり先生に聞きました。

先生は目を見開いて私の顔を見て、少し間があった後に

「後で、新生児科の先生からお話がありますから」

と言い、いつものニッコリとした笑顔を作ってくれました。

私は「そうですか」と言って、

今までのお礼を言おうと思って口を開きかけたら、

先生は目を反らすようにして、

そそくさと立ち去ってしまいました。


***********


先生の私の質問を聞いてびっくりしたような態度を見て、

自分が不適切なことを言ってしまったのかと不安になりました。

でも、今までずっと世話してくれた先生から

子供についての話があって当然だと思われました。

釈然としない気持ちが残りました。

それから午前中はスープを食べて、歩く練習をしました。

何とかトイレの往復が出来て、ベットにたどり着いたとき、看護師さんに

「NICUへは連れて行ってもらえますか?」

と聞くと、その年配の看護師さんは

「もちろんよ」

と笑顔で言ってくれました。

でもそれっきり、何時間も迎えは来ませんでした。


*********


私はイライラしていました。

何で直ぐに子供を見せてくれないのだろうと思いました。

本当に子供は産まれたのかな?

お腹に子供がいたのかな?

とさえ思ってしまいました。

そしてお昼を食べ終え、やっと看護師さんが車椅子を持ってきてくれました。

子供に会えるんだ、と嬉しくなりました。

ところが、

「旦那さんがお話あるそうですよ」

と言われました。

私は旦那と話すよりも先に子供が見たいのに、と

また苛立ちを覚えましたが、

取り合えず車椅子に乗りました。

連れて行かれたのは個室でした。

カーテンが閉められていて薄暗い雰囲気の中、

旦那が待っていました。

何か重大なことを言われるのはその時分かりました。


*********


子供が重態なのか、何か予想されなかった大きな問題があったのか。

でもそれは、母親である私に直ぐに知らされるべきことだと思いました。

私に何も知らせないまま何かが起こっていることを感じて、苛立ちました。

「体調はどう?」と聞かれて

「大分良くなった」

と、私はどいでもいい話題だと思いながら返事しました。

旦那は「そう、良かった」と少し安心したように言いました。

旦那は私が昨日なかなか意識が戻らないのを見ていたので、

この時の快復ぶりを見て本当にホッとしたのだと思います。

そして、前日の話を始めました。

「手術室の前で待っていたら、先に子供が運ばれてきて、その後お前が出てきて・・・」

と言ったところで、

私はすかさず「子供見た?」と聞きました。

旦那は少し間を置いて

「うん・・・」と言い、

何か言いたげな感じの様子だったけど、暫く何も言いませんでした。

そして、

「子供は、産まれて・・・」と旦那は言いい、

次に信じられない言葉を言っていました。

「2時間後に、死んだ」


**********


嘘だ、と言うように私は首を横に振っていました。

旦那は黙って首を縦に振りました。

「いやぁぁあああ!」

見た瞬間、私は大きな声を上げ、泣いていました。

「つらいよな」

そう言った旦那も泣いているのが分かりました。

その時、私は彼の泣く姿を初めて見ました。

知り合って6年、初めて見ました。


これは本当なんだ。

子供が死んだのは事実なのだと、

旦那の泣く姿に、

思い知らされる気持ちでした。


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